3月25日  さあ、出発・ああ、誤算

朝4時15分、もも(小2)をたたき起こし、ひなの(2歳)をそのまま抱え、車に乗り込んで出発。浮島のスターパーキングに5時ちょうどに着く。
羽田空港出発ロビー。なれない自動発券機でもたつきながらチェックイン。






那覇空港で1時間時間をつぶし、JTAに乗り継いで1時間のフライトで石垣島に着いた。この飛行機、昔は「南西航空」といった。白地にオレンジと黄色のライン、ウィングには「SWAL」の文字のプロペラ機・YS11だった。これが好きだったが、今はカラーリングはJALと同系色で、「トランス・オーシャン・エアライン」だあ?なんか好きくなれらいなあ。

空港から離島桟橋近くのバスターミナルまで、おしゃべり好きな運ちゃんの話を聞きながらバスで。ここで川平方面の路線バスに乗り換えるのだが、次のバスまで1時間くらい待ち時間がある。A&Wでバーガーやらをテイクアウトし、バスターミナルのベンチで昼飯。久々にルートビヤのハーブのきいた独特な風味を楽しむ。これもすっかり「沖縄の特産品」になってしまっている感がある。

バスに乗り込むと、運転席でハンドルを握る顔に見覚えが。さっきのおしゃべり運ちゃんじゃんか。見渡せばバスもさっきのバスで、行き先サインが変わっているだけだ。また一番前の席に座り、運ちゃんと話をしながら小一時間のドライブだ。おかあさんも子供たちも、早起きで飛行機の乗換えまでした旅程に疲れてぐっすり眠っている。
運ちゃんとずっと会話をしながら石垣ドライブ。石垣・羽田の直行便は必ず宮古島を中継するが、その本当の理由、とか、夏川リみの兄弟系図とか、「あ、あれがりみちゃんの小学校」とか、「先週までは芸能人の誰々がロケで来ていて、昨日はどこどこで誰々が撮影やってた」とか、ちょっと前ゴタゴタがあったとき、タレントS・Sはここいらへんで忍んでたとか、大御所俳優のT・Kさんはウミンチュの何々じいさんの所に入り浸ってるとか、石垣の英雄ボクサー、具志堅用高の爆笑エピソードなどなど、裏観光ガイドつきの路線バスで、石垣のトレビア知識を身につけながら滞在先の川平へ向かう。しかし、東京で路線バスの運ちゃんと運行中の世間話しなんてするかあ?のほほんとしたペースに早くもはまってきた。島にやってきたって感じがしてきた。





民宿Xに着くが、フロントにも厨房にも人っこひとりいない。上がりこんで2階に行っても、風呂・便所を覗いてもやっぱり人はいない。お客もいない。商売っ気を全く感じない雰囲気に愕然。以前はぼろいなりにも、若い旅人の明るい喧騒が息巻いていた。まったく違う雰囲気だ。どうして?しばらくどうしていいかわからず、たたずむ。おかあさんは玄関先に腰を下ろしたっきり、ロビーに上がりもしない。よほど疲れたのかと思いきや、後でそれだけではないことが判明した。

しばらくして宿の主人が隣接している自宅とみられる建物の2階から、すみません、すみません、とすまなさそうな顔をしないで降りてきた。昔世話になったオヤジさんではなかった。かったるそうにチェックインの手続きをさっさと済ませたかと思えば、おざなりの歓迎挨拶をするでもなく、そそくさとまた、2階の自宅へ戻って行く。なんともそっけなく、出鼻をくじかれた。2階の部屋に入ってみるとこれまた印象よりぼろく、浴衣もタオルもティッシュペーパーもない。そうだ、思い出した。完全体育会系の合宿向き民宿だった。ちらと見ると、ますますのんちゃん(おかあさん)の様子がおかしい。完全に意気消沈している。空気の重さに耐えきれず、ひなのと外に出てみる。ももは館内を散策し、ロビーで漫画なんかを見つけて読みふけっている。川平の中心部でパッションフルーツジュースなどを買って帰り、のんちゃんを元気つけようかとしたがうまく行かない。長年の経験で、これは容赦ならぬと察し、突っついてみるうちに泣き崩れた。せっかくの石垣旅行でこんな刑務所みたいな所で過ごさなければいけないのか、と言った。肩が完全に落ち、旅行の浮き立つキモチが完全に消し飛ばされている。ああ、こんなはずではなかったのに、こちらも、にわかに焦り出す。

彼女には彼女のイメージがあり、この民宿を目の前にし、あの応接にあったとき、それが音をたてて崩れたのであろう。せっかくの石垣旅行、このような宿で過ごすのかとショックで立ち上がれなくなっていたのである。思えば、雨風凌げて、ドカ飯が食え、料金こんだけ?ってな具合の貧乏ダイビング旅行で使った宿であった。しかも昔来た時よりも老朽化は着実に進んでいるし、なにより宿全体の雰囲気はがらりと違っていた。どうしちゃったの?
宿選びに関して、ちょっと不適格な選択であったか、という思いがちらり。予約をしたのは紛れもない自分だし、宿にしてみてもこんなこと言われるのは余計なお世話だし、なんか、二つのプレッシャーにはさまれちまった?オレ・・・。宿選びは慎重に。・・・今後の教訓@

ともかく、ここにいるだけでどんどんバッドに陥っていきそうであるので、外に出るよう提案する。
「近くにレンタカー屋があったよ。ドライブしながら案を練ろう。いい宿に出会うかもしれないし」ということに。


  

しかしやっぱりのんきな島で、レンタカーの店に従業員がいない。おいおい頼むよ、こっちは真剣なんだぜ。留守時の連絡先が扉に貼ってあったので、電話をかけてみると15分くらいで行きますという。待ってる間に明日世話になるサウスオーシャンビーチサービスの小林さんから電話がかかってきた。近くまで出てきてますので、これからどこかで合流してお会いしましょうとのこと。ああ、宿も見つけないと行けないし、明日の遊びの打ち合わせもしなくてはいけない。もうぼくたいへん、とばかりにダイハツ・ムーブに乗り込んで出発。道に迷いながらも、49号線に出て米原キャンプ場の駐車場で合流。以前死にそうになったあの米原海岸である。30歳半ばの小林さんと、もっと若そうな奥さんと2人が笑顔で迎えてくれた。

米原のビーチで軽い自己紹介と明日のビーチ遊びの打合せ。ももたちは歓喜しながらビーチで貝殻を拾ったりしながらはしゃいでいる。子どもたちはいかにも楽しそうである。かわいい。「(宿泊先は)なんで民宿Xさんなんですか?」との問いに答え、実は他の宿を探そうとしていることを伝えると、川平の知り合いの「海の家族」というペンションがあると教えてくれた。ウミンチュである小林さんが獲った魚やエビなんかを買ってくれたり、ペンションのお客さんの海遊びを手伝ったりとか、とにかくオーナーと知り合いらしい。よかったら紹介する、実はこれから「海の家族」に明日使うウェットスーツなんかを借りに行く予定なのだという。こちらも当てがあるわけでもないので、彼のパジェロについて行くことになった。

宿の話になったとき小林さんは、「ファミリーであそこは、ちょっとですね」とだけ言った。ちょっとどうなのかということに言及してこそいないが、もう十分解りすぎるほど解ってしまったので、それ以上訪ねるのをやめた。突き詰めてはいけないものがこの世にはある。お互いさらりと会話を流す大人であってよかった。明日一日彼に任せることが正解のように思えて、救われた気分になった。




 
 

川平の中心部に行く手前に郵便局があり、そこを山側に左折し、登っていく坂の途中、左側に「海の家族」はあった。駐車場に乗り入れるとすぐオーナーの柴田さんが出てきて、コテージ風の部屋を案内してくれた。高台にあり、部屋前のウッドデッキのポーチからも部屋の窓からも川平湾が見下ろせる!ポーチの下は芝生になっていて、丸太で組んだベンチがあり、ここでも川平湾と山並みの眺望を楽しみながら泡盛を一杯クイッと、なんてできそうでいいではないか。心憎いことに、ベンチにはちょうどグラスが2.3個置ける丸太のサイドテーブルらしきものがたたずんでいる。既にココロをつかまれる。部屋もベッドが3つあり、ユニットバス・トイレ・エアコン完備でゆったりとした広さだ。ふかふかしたタオルが積まれてあり、空いたティッシュが3個も4個もあるし、外にはランドリーもある。小さい子供と一緒のファミリーには最適ではないか。小林さんの紹介なので、子供料金を通常より負けてくれるということで、文句なしでここに決めた。のんちゃんの顔に色が戻ってきた。

明日朝9:00からビーチ遊びスタートなので、ここに朝の8:30にチェックインし、小林さんともここで待ち合わせということに。当初3泊の予定の民宿Xを断るのに気が重いが、我が家族とその思い出を守るために立ち上がらなくてはいけないのだ!!(チョー大げさ)そう思うと今日にでもこっちに来てしまいたいとも正直思ったが、それはマナー違反。

民宿Xの夕食時間までドライブする。49号線の海岸線を北上。8歳のももが、「みなこちゃんと将来一緒に暮らそうって約束してるんだけど、石垣島もいいって教えてやろう」なんて言ってる。旅行のたびに候補地が増えてくるので笑ってしまう。こちらもやっと心に余裕が生まれ、最近肌身離さず持ち歩いているiPodで音楽を楽しもうとしたが失敗に終わった。FMトランスミッタiTripはiPodの音を電波で飛ばして、FMカーラジオで楽しむことが出来るのであるが、設定の87、9MHzにあわせると、地元の放送局の音が入ってしまう。東京では87、9MHzの周辺にラジオ局がないから、これに設定し、シャッフル時の支障をなくすためにそれ以外の周波数をiPod Stationのリストから削除してしまっていたので、この周波数以外の設定ができないのだ。うーん、うまくいかないものだ。特に沖縄のような、日本でも極地に旅行する時は、周波数を選べるように、事前にいくつか広い幅で残すよう、再設定しておくべきだ。今後の教訓A。あーあ、フェイバリットナンバーを聞きつつ石垣の海岸線をクルージングなんて、ちょっと楽しみにしてただけに残念。

民宿Xの食堂でまたもや重い空気の中食事をする。客はうちらしかいない。厨房の奥で宿の家族が食事をしている。

飯は、特にひどいということはなかった。ゴーヤチャンプルはけっこういけた。が、気が重いし、宿の人も素っ気ないしで、楽しい食事には程遠い。ひなのはともかく、ももにもお茶碗がないので、お茶用の茶碗に飯を盛って、もも・ひなに食わす。お手拭きやナプキン類がないから子どもと一緒の食事が不便。ビールを飲むのも忘れてしまった。そう、ここは「体育会系合宿タイプ」の宿であったのだ。ファミリーユースにはちときつい。宿の家族は、客である我らを珍しいものかのような目で見る。何故か視線が痛い。いたたまれない。はやく部屋に引きこもりたく、黙々と飯を喉に通す。

ご自由にお飲み下さいというインスタントコーヒーは、ふたを開けると固まってコチンコチン。のんちゃんは無言で首を横に振った。そして情緒制御モードに入り、かたくなに防御態勢に入って、外部からの情報をシャットダウンしはじめた。ああ、はやくここから脱出したい。風呂はどうするのかとおばさんに聞いたら、いつでもオッケーみたいなこというから、もう用意はできてるのかと思ったが、行ってみると浴槽はからっぽ。ああ、そうか、自分で貯めるのね。そうね、そうだよね、と湯せんをひねりつつ、ああ、先に風呂に来てよかったなあ、と思った。
風呂から上がり、勇気を振り絞って離れの2階自宅まで行き、おじさんに言った。
「あの、当初3泊お世話になる予定でしたが、レンタカー借りてあっちこっちを泊まり歩こうかと、いうことに変更になりまして(く、苦しい)今日一晩だけご厄介になることにしたいんですけど」と言うと、
表情を変えるわけでもなく、ぼそっと「ああ、それがええね」と一言。やっぱり向こうは向こうで「うちの客らしからぬ」と思っているようだ。

ああ、今日は疲れた。ぐったりだ。気を失うように布団に倒れ込み寝た時間もわからない。
夜中じゅう、なぜかひなのがうなされる。怖い夢でも見てるのか、えんえん泣きながら寝ている。